ラムネ サイドストーリー 〜佐倉裕美〜

ラムネ サイドストーリー 〜佐倉裕美〜


「―――――えっ?」
夕食の席で、お母さんの口から発せられた言葉が一瞬なにを意味しているのか分からなかった。

引越し…。
もっと街の方にお店を出せる機会が出来たので、お店ごと街に引っ越すことになったというものだった。
確かに、この町では人はそれほど多くないので正直なところお店の方は上手くいっていない。

この件はまだ決定したわけではないので、どうしても嫌ならこのままでもいいと…。
しかし話は結構すすんでいるらしく、後は私が了承するかどうかのみということだった。
お父さんが私がどうしたいかを尋ねてきたが、お店のことを考えたら「分かった」としか言えなかった。

部屋に戻った後、私はベッドに倒れこんだ。
しばらく枕を抱きながらボーっとしていた私。
仰向けになって部屋の蛍光灯を眺めながら色々と考え出した。

本当は…嫌だった。
この町の生まれではないけれど、もう10年近く住んでいたのでもう殆ど故郷のように思えていた。
何も無いけれど、いつもゆったりとした時間が流れているこの町が好きだった。
学校には友達もいる。
引っ込み思案な私に気兼ねなく話しかけてくれる皆。
友達が出来るかどうか心配していたけれど、そんな心配は必要なかったほど皆いい人達。

そして何より……。…そうだ。
この町に来てすぐの頃、あの人に出会ったんだ。

「友坂先輩…」

意識していなかったが、口からそんな一言がぽつりと出た。


初めて会ったのはあの暑い夏の日。あの頃のうちはまだ駄菓子屋だった。
お父さんもお母さんもお出かけしてしまっていて、
一緒に遊ぶお友達もいなかった私は初めて店番を預かることにした。
ちょっと不安だったけど、もしかしたらお友達が出来るかもしれないという淡い期待があったから。
しばらく店先に座ってお客さんを待っていたけれど、誰も来ない。
期待とは裏腹に、余計に一人ぼっちな自分を感じてしまい泣きたくなって来さえした。
寂しさを胸に、仕方なく居間の方に戻ったとき、外の方から声がしてきた。

「すいませーん」

男の子の声だ。諦めかけていたので、驚きと緊張で外に出るのに戸惑ってしまった。

「あのぅ、すいませーん」

出るかどうしようか悩んでいるうちに、また声がかかってしまった。
慌てて出ると、そこには同い年か一つ上位の男の子が立っていた。


そう…それが、友坂先輩だった。あの時は本当に、ただただ嬉しかった。
お友達が欲しい一心で自分のヘアピンを差し出した私に、友坂先輩は自分で買ったラムネを交換してくれた。
ラムネの開け方のコツを教えてくれたりして、あの瞬間は寂しさも何も無かった。

夏休みが終わった後、学校で友坂先輩を見つけた時も嬉しかった。
学年が一つ違ったのは残念だったけど、それでもお友達になれるんじゃないかって、ドキドキしていた。
でも、あの日お友達になって欲しいと言えなかった事がちょっと心の隅に残っていて…、
いつも側には沢山の友達が…近衛先輩がいて、私の方から声をかけることは出来なかった。

考えてみれば、あの頃から私は友坂先輩が好きに…なっていたのかも知れない。
そして、あの頃から時間があるからと…自分を誤魔化してしまっていたのかも知れない。
遠くから眺められていればいい、いつかは私も先輩と笑って話せる日が来る、と…。
そう自分に言い聞かせて、“あたりまえ”の日常を過ごしてきた…。

でも、あたりまえと思ってるものほど…急に変わってしまうものなんだ…。


「この町にいられるのも…友坂先輩と同じ学校に通えるのも、あと…2週間か…」

呟いた言葉は、私の部屋の中で消えて行った。
誰も答えてくれないその言葉が言いようのない悲しさと、そして後悔の念を湧き上がらせていく。
このまま、私は別の町に行ってしまっていいんだろうか?
友坂先輩とまともに話すことも無く、ただ転校していった後輩として忘れさられてしまっていいんだろうか?

「そんなの…やだよぅ…」

気がつくと、私は泣き出していた。
拭っても拭って、あふれる涙が止まらない。
涙に比例して心の中の悔しさがより鮮明になっていった。

今まで私はただ遠巻きから見ているだけだった。
そんな私だったから、今こんなにも悔しい思いをしてしまっている。

叶わぬ恋だとは分かっている。友坂先輩には近衛先輩がいる。
それでも…!
今の気持ちを引き摺ったままでいるよりも、新しい私に生まれ変われるチャンスが欲しい。

だから…私は…



【あとがき】
という事で、念願だった佐倉さんSS、書いてみました。
ショートストーリーではなく、どちらかと言うとサイドストーリーですね。
本当はこの後、多恵先輩に絡む(表現不適切)所まで書こうかと思っていたのですが、
今日(04/08/31)に届いた「【ねこドラマCD】-ラムネ-」の中に佐倉さんのSSがあり、
その中で多恵先輩との会話が含まれていたために書かないことにしました。

しかしまぁ、こそばゆい展開も、SSならではのパラレル感も何も無い無難なSSですねぇ(汗)
とは言いつつも、佐倉さんを弄る(だから表現が(略))勇気もないので、
とりあえず処女作としては及第点ということにして頂ければ幸いです。

※本SSはねこねこソフトより発売中の「ラムネ」の二次創作作品です。
 本作品の著作権は管理人:レンニャクにあります。
 (いないとは思いますが)無断転載・複製はご遠慮願います。


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