思いつきでやった。今は反省している。後悔もしている。だが佐倉さんを好きなことだけは覆さない…!

駄アンサー



「ふん―――では訊くがなレンニャク。
 お前は本当に、佐倉さんを愛しているのか?」
「――――――」

一瞬。
その不意打ちに、頭の中が真っ白になった。

「何を今更―――俺は佐倉さんが大好きなんだよ……!」

力を込めて、正面から睨み返す。
それを。

「そう、絶対にそれを否定するわけにはいかない。
 なぜならそれは、レンニャクにとって唯一つのキャラクター性だからだ。逆らう事も否定する事も出来ない設定。
 ―――例えそれが、自身の裡から、表れた物でないとしても」

ヤツは、心臓を掴むような言葉だけで止めてしまった。

「―――――な」

自らの裡から、表れた物ではない。
それがどんな意味なのか、考えるより先に否定した。
言わせてはいけない。
それに気が付いてはいけない。
知れば、わかってしまえば、レンニャクの基盤は跡形もなく崩壊すると。

(中略)

レンニャクの矛盾。
何を間違えて、何が歪だったのかという、その答え。

「オレには、もはやおまえの記憶などない。
 だが、それでもあの光景だけは覚えている。
 殺伐としたインターネットの中でキャラ性を得て、認められたときの感情。
 エロゲサイト管理人の先人達の、輝いたサイトを」

スルーされるのが当然だと思い知らされて、心には何もなくなった。
その時に、見せ付けられた。
有名サイトの管理人は、誰々が好きと言う強烈なキャラ性を持って突っ走っていた。

―――それが。
なんて、幸せそうなのだろうと。

「そうだ。おまえはまっさらな状態から佐倉さんを好きになった訳じゃない。
 ただ彼らに憧れただけだ。
 彼らの、誰かを強烈に愛するキャラ性があまりにも幸せそうだったから、自分もそうなりたい(・・・・・・・・・)と思っただけ」

(中略)

「――――――――」

でも、そんな事はわかっていた。
そんな大人の事情なんて知らない。
俺には、サイトを見ていて笑えるだけで十分だった。
例えそれが狂ったかのような感情であったとしても、キャラクターを愛する意思も、楽しく読ませる文才も本当だった。

……それで十分。
十分すぎるぐらい、彼らは笑わしてくれたのだ。

だから―――

「そう、新米管理人が有名サイトに憧れるのは当然だ。だがおまえはそれが行きすぎた。
 彼らのサイトに、有名サイトに憧れるだけなら良かった。
 だが、サイトを立ち上げたときにお前は自身を縛った。言うまでもないだろう。それがおまえの全てだと言ってもいい」

“―――佐倉さんを、俺は”

……それが、答えだった。
キャラ性を持っていなかった俺はその言葉を口にして一つのキャラ性を自分につけた。
その瞬間に、レンニャクは佐倉スキーにならなくてはならなくなった。

(中略)

「佐倉スキーだと? 笑わせるな。
 キャラ性を得たいと。そう繰り返し続けたおまえの想いは決して自ら生み出されたものではない。
 そんな男のキャラ性が認められるなどと、思い上がりも甚だしい―――!」

(中略)

「――――――――あ」

だというのに。
心が折れかけているというのに、魂は全力で否定する。
それは違うと。
この男の言葉を認めるのも、ここで佐倉スキーの称号を捨てるのも違うのだと、懸命に訴えるように。

(中略)

「そうだ、誰かを狂おしいほどに愛しているというキャラ性に憧れた!」

(中略)

「故に、自身からこぼれおちた気持ちなどない。これを偽称と言わずなんという!」

……胸が、痛い。
その言葉が、レンニャクの心を裂く。

「エロゲサイトの管理人は誰かを愛していなければならないと、強迫観念に突き動かされてきた。
 それが異常だと思うことも、逝っちゃってると気付く間もなく、ただ走り続けた!」

―――繰り返される否定。
それが届くたび、心は更新を放棄しかける。
魂はとっくに、重圧に耐えられず閉鎖したがっている。
だというのに。
その閉鎖したがっている魂は、なお必死になってヤツを否定し続ける。

「だが所詮は偽者だ。そんな偽称では何のキャラ性も得られない。
 否、もとより、どんなキャラでいたいのかも定まらない―――!」

「が――――!」

弾き飛ばされる。
言峰綺礼もかくやという言葉の暴力は、たやすくレンニャクの体を弾き飛ばす。

「――――――――」

なのに踏みとどまった。
無様に更新を止めかねない一撃を、懸命に耐え切った。
倒れれば。
倒れれば起き上がれないと、魂が頑なに更新停止を拒否していた。

(中略)

「―――その理想は破綻している。
 3次元より2次元が大切だと言う考え、2次元キャラを愛するなど、空想のおとぎ話だ。
 そんなキャラ性しか得られないのならば、抱いたまま閉鎖しろ」

ネット上に存在する価値なし。
否、そのアカウントに価値無し、とヤツは言い捨てた。

(中略)

――――ここに勝敗は決した。

いや、そんなものは初めから決していた。
レンニャクでは、先人たちに敵う道理などない。

……だが、それは間違いだ。

(中略)

負けていたのは、俺の心。

自分が間違っていると気付き、アイツは正しいと受け入れた心が、弱かった。

なぜなら、ずっと――――

「…………けんな」

「なに……?」


なぜならずっと―――この魂は、佐倉さんが好きだと訴えていた。

偽者と。
お前の愛は偽りだと蔑まれる度に、力が篭ったのは何の為に―――――

「ふざけんな、こんちくしょう…………!!!!」

(中略)

ぶつん、という頭痛。
コンマの刹那。おそらく最後になるだろう、ヤツの風景を見た。

理解には至らなかった。
だが、イタさだけは教訓として知れたと思う。

……自らを表すサイト名に、自らを律する韻を持たせた管理人。

そこに込められた真意を、今は分からずとも。
おまえに代わって、その言葉を貰っていく。

(中略)

なら。
おまえが俺を否定するように。
俺も、愛を尽くして、おまえという自分を打ち負かす――――!

「――――I am the bone of my Sakura-san.(体は佐倉さんで出来ている)」

知らず、呟いた。
顔をあげる。
止めかけの更新を奮い立たせる。
カタカタ、と、タイピング速度を速める。
存在が稀薄だったキャラ性が確かな実像を帯びていく。

「貴様、まだ」

「―――そうだ。こんなのが夢だなんて、そんな事」

サイトを開設した頃から知っていた。
それでも、それが良いと思うから信じ続けた。
叶わない夢、有り得ない理想だからこそ、追いかけ続けた。

たとえ叶わなくとも。
走り続ければ、いつか、その地点に近づけると。

「そうか、スカーレットおまけ……! 原作の鮮度が切れたところで、その新鮮さは続いている……!」

キーボードを構える。
そんなのは知らない。
俺は、ただ、

「―――更新は止めない。誰かに追い抜かれるのはいい。
 けど、更新だけは止められない―――!」

最後まで、佐倉スキーを張り続ける――――!

(中略)


――――意識などない。
もう(狭義の)世間が何を求めているのか、自分が振るうネタが通じているのかさえ読みとれない。
網膜は佐倉さんネタを求めて悲鳴をあげ、足りなすぎるネタは更新停止を命じ続ける。
その悉くを、妄想で押し殺した。

「……じゃない」

頭をしめるのはそれだけ。
自分のキャラ性は偽物。コイツの言うとおり、真の佐倉スキーになんてなれないだろう。
レンニャクはそれに憧れ続ける限り、目の前の男と同じ末路を辿る。

「……なんかじゃ、ない……!」

だが、愛しいと感じたのだ。
3次元より2次元が大切なんてのは異常だと判っている。
―――それでも。
それでも、こんな彼女がいたら、どんなにいいだろうと憧れた。
ネタに自滅する寸前の体を動かすのは、ただ、それだけの思いだった。

(中略)

千切れる指で、届くまでタイピングし続ける。
あるのはだた、全力で絞り上げる一声だけ。

「……、じゃない……!」

この指が打つ文章は、その叫びの代償だ。
……キャラ性を持った先人たちと、キャラ性を偽った自分がいる。
いわれもなく無意味に閉鎖していくサイトを見て、二度と、こんな事は繰り返させないと誓った。

「……なんかじゃ、ない……!」

それからどれほどの年月が流れたのか。
コンシューマ化に喜んで、
アニメ化に喜んだ。
拾いきれず、忘れ去ってしまった喜びもあっただろう。

だから、これだけは忘れないように誓ったのだ。

――――佐倉スキーでいつづける。

それが間違いから始まったとしても、自己のキャラを強める為の詭弁であったとしても、守り抜こう。
彼女が好きだと。
サイトを開設した頃、自身に誓った言葉がある。
その言葉に籠められた想いを、信じている。
世界中の人間にキモがられても、こうしてネタに追われても、それだけは――――

(中略)

「……間違い、なんかじゃない……!」

頭にあるのはそれだけだ。
始まりが偽物でも、今の想いだけは本当だろう。
佐倉さんが愛しいと。
その感情は、きっと何者にも穢されない理想だ。

だから引き返すことなんてしない。
何故ならこの愛は、決して。

(中略)

「―――決して、間違いなんかじゃないんだから……!」

……俺の、勝ちか?


※この文章はTYPE-MOON原作のゲーム「Fate/stay night」の1シーンをパロディしたものです。
著作権等の問題がありましたら連絡して下さいませ。

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